チョコレート

突然仕事の連絡が来た。出勤は任意であり、会社の踏み絵をするような気持ちは持たなくて良いのとこと。

 

え・・・行きたくないに決まってるじゃん!!!!

 

出勤は任意で出勤しなくても固定給は出るし出勤しても固定給以上の報酬はないし勤務地まで1時間半以上かかるし家に帰ってくるのは23時半過ぎになる。よっぽどの会社愛好家、もしくは経験を積みたい貪欲な気持ちがない限り行きたくないの当たり前だよね。この間なんて前日に電話がかかってきて翌日出勤することになり勤務地の近くまで行ったところで中止の連絡が来てそのまま帰宅した。(これは上司のせいではないのだけれど)

三年目までの私なら迷わず行っていた。例え出勤日数も自由ですと言われようと普段通りのペースで行きますと自発的に言っていた。経験を積みたい、やる気を見せたい、昇進のためならなんでもやりますとの気持ちを添えて。

その気持ちがなくなったのはある意味力の抜きどころを覚えてしまったせいかもしれない。頑張る必要のないところで頑張っても評価や経験値には関係ないし、ただの良い子ちゃんだった私が損していることに気が付いた。

随時LINEをしている母にこんな気持ちをぶつけたところで、働きたくないの?仕事した方が心身のためだよ。楽しそうだから私なら行く等と優等生の言葉が帰ってくるのは分かっているから怠惰の感情をぶつけるのは御免だ。そんな環境で育ったのでどうしても我慢強い良い子ちゃんで振舞う性格になってしまった。

どうせ働かなくてもお金がもらえることを幸運ひ遊びに更けているだけのダメ人間ですよ!私は仕事が嫌いです!楽してお金をもらいたい!映画観てドラマ観てSNSをハシゴして好きな音楽を聴きながら欲しいものリストを作ってダラダラ昼夜逆転生活最高!!!

そんなことはさておき、そんなジレンマを抱えた時こそチョコレートは最高というのが今日の本題。

上司から電話がかかってきた瞬間、身体が一番に求めたものはチョコレートだった。そう、ストレスを感じたときに心を癒してくれるのはチョコレート。

脱兎の如く家を出て歩いて5分圏内のカルディとスーパーへ向かう。最初にカルディへ行ったが目当てのチョコレートがなく大きいスーパーへ行った。

導線を考えずに最短距離でチョコレート売り場へ足を運ばせるといつも買う面子とは違うチョコレートに目がいく。毎日の平凡な仕事には駅のコンビニによくあるチョコレートだけで充分だけど、怒りや気持ちの高ぶりには海外の分厚い板チョコがよく似合う。たくさん入ったファミリーパックを買いたいところだけど買ってしまうとある分はすぐに平らげてしまう性分なのでやめておく。通常サイズの板チョコはやっぱり明治のチョコレートにしておこう。板チョコは罪深く感じるのが普通の女の子かもしれないけど一枚で279kcalだよ。それくらい全く遠慮する必要ないよね?だってエンゼルクリームのドーナツ一つよりも少ないよ?むしろ板チョコ一枚では全く足りない!

そんなことを考えながらチョコレートを4つ指に絡ませレジへ向かう。袋は要らないですと伝え、会計を済ませて店を出る。

どれから食べようか、飲み物は何にしようかと考えながら帰路に就く。あぁまだ外が明るくてよかった。もし真っ暗だったらまた夜にチョコレートを大食いしてしまったというストレスが上乗せされるのだから。

家に着くと牛乳をコップに注ぎ、買い物に使ったバッグの中身を解かないまま座って食べるチョコレートだけを取り出した。初めは中にビスケットが入ったチョコレート菓子から。噛んだ瞬間に心にギュッと縛り付けられていた糸が解けていく。牛乳を飲む。いつもはコーヒーか紅茶を共にするけど、今日はチョコレートを甘く感じるために珍しく牛乳を飲みたくなった。牛乳の爽やかだけど滑らかな濃さがミルクチョコレートによく合う。噛むたびに呼吸が深くなる。チョコレートのパッケージに赤が似合うのはなぜだろう。高級感?愛情の印?分からないけどチョコレートといえば赤だよね。

f:id:kisskisa3:20200507213910j:image

 

次は明治の板チョコ。仕事の休憩中なら手で割りながら食べるけど、今日はそのままがいいな。銀のアルミホイルをスルスルと破りかぶりつく。舌全体に甘さが広がる。板チョコをそのまま食べるなんていつぶりだろう。昔からある定番のチョコレートだけど、人生でこの板チョコを買う回数は決して多くなかった。小さいころから家には常にお菓子があったけど、ファミリーパックで買ったチョコレートがカゴに入っていることが多かった。うろ覚えだけど初めて板チョコを自分で買ったのは高校生の頃の気がする。きっと憧れの誰かから板チョコにかぶりつくという行為を覚えたんだと思う。口に入れた瞬間すぐに溶ける薄さが愛おしい。なぜか涙が出た。ん??なんで私は泣いているんだ。30分前、上司から電話が来て仕事の話が来て断っても問題ないけど断れない自分が嫌だっただけだよ!!?仕事のストレスでもなんでもないじゃん!!!なのに不思議と涙が出るのはただ良い子を演じる自分に嫌気が差し、それをぶつける場所がなかっただけだ。それを今この板チョコが溶かしてくれているんだ。頑張らなくていいよ、ただ生きているだけでいいんだよ、正当な理由がなくても仕事は休んで良いんだよ、そう言って欲しい。99.9%アルコールアレルギーの私にとってチョコレートを食べることは晩酌同様。お酒じゃなくて良かった。お酒と違って酔うこともなく、周りに迷惑をかけることもなく、頭痛が出ることも顔が赤くなることもない。チョコレートを安価に手にすることができる時代に生まれてきて良かった。なんで幸せなんだろう。

そうして今日はチョコレート菓子、ミルクチョコレートの板チョコ、ピスタチオの細長いチョコレートを一気に平らげた。すっかり心が落ち着いた。

 

上司から連絡が来た。

『明後日の出勤、ほぼ確定です!』

平常心になった私はかなり少ない日数であるが任意の仕事をすることにした。結局、正当な理由を持たない限り断り切ることができない良い子ちゃんを抜け出せない。出勤しても褒められるわけじゃない。ただ、断ると罪悪感が残るだけなのだ。こんな好きな働き方できるのも贅沢だ。どうせ休んでも家でダラダラしていつも通りの生活をするだけだし、たまには刺激があっても良いよね。